症例・・・ウサギ(ドワーフ) オス 9歳  BW2.2kg  みい

主訴・・・1週間前から食欲、元気がなく、呼吸が苦しそう

 

現症: 

 大きめのワイヤーケージに入って来院した「みいちゃん」は、

頸を伸ばし、口を大きく開けながら鼻腔も精一杯開いて呼吸していました。

一見して「危険な状態」そして「最悪なケース」が予想されました。 

 

 

少なくともこの呼吸様相は、肺が十分に膨らんでいません。

重度な低酸素症が考えられます。

 

ウサギはとても強いストレスを感じる動物です。

このような低酸素状態はほんの少しの束縛でも

血中酸素飽和度が急激に下がり、一瞬で呼吸停止が起こります。

 

たとえ短時間であっても診察台にあげて診察をすることさえも

危険なのです。

 

そこで、飼い主のNさんに、大変危険な現在の状態を説明し、

ICU酸素ケージ内での酸素吸入を何より優先すべきことを伝えました。

 

Nさんには理解していただき、

一般身体検査をすることなく

素早くICUケージにみいちゃんを入れました。

 

 

 

 

うさぎみー3.jpg

 

みいちゃんの頸を伸ばした状態を見てください。

苦しいので、本能的に気道を真っ直ぐにしています。

空気の酸素濃度は約20%ですが、このICU内では2倍の40%まで上昇できます。

呼吸困難の動物にとっては大きな治療効果が期待できます。

 

みいちゃんは、この後一晩、ICUケージ内で過ごしました。

 

これだけ呼吸が苦しい状況ですので

、胸腔で何が起こっているのか確認をしたいのです。

 

翌日の午前中、レントゲン検査をすることにしました。

条件は1分以内、できれば30秒以内に撮影し、ICUケージに戻すことです。

 

レントゲン撮影の準備を整えました。

「ヨーイ ドン!!」でICUケージからキャリーに入れ替え、

レントゲン室に運び、   撮影!!

すぐキャリーから、ICUケージに戻しました。

ほぼ、30秒で 完了。

 

その写真がこれです。

 

 

うさぎみー2.jpg

 

側面像:

心臓陰影が消失し、気管は挙上している。

気管腹側エリアが刷りガラス状に不鮮明化し、肺後葉辺縁が鈍化していることから、

胸腔内液体貯留が認められる。

肺の構造が確認できるのは、後葉部分だが、多数の大きさの異なる腫瘤病変が

認められる。

 

うさぎみー1.jpg 

 

腹背像:

肺野全域に大きさの異なる腫瘤陰影が見られ、合わせて液体貯留も確認される。

 

レントゲン診断:

肺癌及び癌性胸膜炎による胸水貯留 

 

肺癌の最終ステージと考えられました。

 

呼吸を多少とも楽にするために、「胸水を胸腔穿刺で抜く」という選択肢がありますが、

診察台に乗せるだけでもチアノーゼが起こってしまう状況で、

デリケートなテクニックが必要な胸腔穿刺は、ウサギにはあまりにも危険すぎます。

 

3日間、みいちゃんはICUケージ室内で過ごしました。

その間、抗生剤、ステロイド剤の注射を1日1回投与しました。

ICUケージ内で野菜、水分は口にしました。 排便も小さいながらあります。

 

今後について、飼い主のNさんと相談しました。

呼吸不全の飼育動物のターミナルケアをどうすべきか? どうしたいか?

亡くなるにしても、できるだけ苦しまないようにしたい、

できれば、家で看取りたい  という気持ちがあるようでした。

 

1つの提案をしました。

自宅で可能なレンタルの酸素BOXを使用することです。

静岡では

ハートランド というペット用酸素ハウスを扱う業者があります。

 

問い合わせると、その日のうちにでもご自宅に搬入できるようです。

 

Nさんは、自宅に連れて帰ることを選びました。

問題は移動の車中です。 約30分かかります。

そこで、携帯用酸素を用意していただきました。

その日の夕方、全ての準備を整え、みいちゃんは自宅へと向かいました。

車の中で、最後になりはしないか?

心配でたまりません。

30分後、無事自宅に帰り、搬入した酸素ハウスに入ったとの連絡がありました。

 

今はただ、ご自宅の酸素ハウスの中で、

1日でも長く触れ合いの時間を大切に過ごしてほしいと

願わずにはいられません。