猫の肘関節脱臼に対して外科的整復を実施した症例を紹介します。

実は、これも地震がらみの症例でした。

 

症例: 長毛雑種猫 避妊メス 2歳  BW4.0kg  もも

 

経緯はこうです。

8月11日の地震でパニックになり大暴れした直後、左前肢の肘関節を脱臼してしまう。

行きつけの病院で1回目・・・麻酔下で脱臼整復→再脱臼

           2回目・・・麻酔下で脱臼整復(外固定)→再脱臼

           3回目・・・麻酔下で肘関節固定ピンニング手術(8月22日?)→再脱臼?

 

9月1日 困り果てた飼い主のKさんが電話相談の上、モモを連れて当院に来院しました。

レントゲン検査:

 

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ご覧のように、再び脱臼しています。

上腕骨顆が尺骨肘頭の前方にはずれています。

他院で、固定用に挿入されたピンはバッキリと折れていました。

 

さて、

他院で3回整復処置をして、3回ともはずれ、ピンも折れています。

肘関節を構成する周囲の靭帯はかなり損傷しているでしょう。

 

 

 

 

正直、頭を抱えました。

しかし、飼い主のKさんは藁をもすがる気持ちで、当院を訪れています。

最終手段は、関節固定術です。更に太いピンを使うか、プレートで完全に固定する方法です。

でも、可能性があるなら・・・

 

そこで、人工靭帯(強靭な非吸収糸)とスクリューを使った「外側側副靭帯置換術」

での整復を提案しました。

うまくいけば、再び関節が使えるかもしれません。

Kさんには全てお任せするとの同意をいただき、翌日に手術を実施しました。

 

 

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ドロレプタン、アトロピン、スタドールで前処置、ケタラールで麻酔導入直後です。

左肘にピンを入れた時の縫合部が見えます。

脱臼しているので左前肢のひじは、この位置より前方には屈曲できません。

 

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手術部位を消毒し、ドレープをかけました。

 

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折れてしまったピンのうち、尺骨側に入っていた短いピン片は取り除きました。

上腕骨に残ったピンは埋まってしまっているので、残すしかありません。

 

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切皮は肘関節の直上でやや長めに切開します。

 

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露出した筋膜を切開し、さらに深部へアプローチします。

 

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関節が露出され、脱臼している上腕骨顆が見えています。

 

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橈骨を骨鉗子でつかみ、正常位置に整復したところです。

肘関節が元にもどったので、前方に屈曲できるようになりました。

ただ、このままでは前肢を動かすとすぐはずれます。

 

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そこで、橈骨の近位骨幹に貫通する穴を開けます。

ここに、滅菌処理した人工靭帯(VALVAS40)を通すのです。

 

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人工靭帯を通しました。

これが再脱臼を防ぐ締結帯の役割をします。

 

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次に、上腕骨顆にスクリューを挿入するためのガイドホールをドリルで開けます。

 

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上腕骨顆に対してガイドホールは垂直に開ける必要があります。

 

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自作したワッシャーをかませたスクリューを上腕骨顆に挿入し、

人工靭帯をワッシャーの下に8の字にクロスさせてかけます。

そして、整復した状態で強く締結します。

 

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しっかり締結し、不安定性がないか確認しました。

OKです。

 

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肘関節周囲の靭帯組織を縫合、切開した筋膜も縫合閉鎖します。

 

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皮下織、皮膚を縫合し、傷は閉鎖できました。

 

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肘関節を構成する周囲組織がしっかり癒合されるまで、

関節を大きく動かしてほしくない為、

外部固定を行いました。

約2週間予定しています。

 

 

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術後のレントゲン所見です。

うまく整復されています。

 

 

この後は、ケージレスト(入院してケージ内管理)を続けています。

1週間後と10日後のレントゲン確認で、再脱臼はなく順調に経過しています。

 

2週間後に外部固定を除去する予定です。

 

その後の経過は、次回報告します。